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「モーツァルトの手紙」吉田秀和編訳 講談社学術文庫

モーツァルトの父レオポルトは、自分の息子は天才に違いないと、モーツァルトがごく幼い頃から、その手紙を後世のために取って置くように家人たちに命じました。レオポルト亡き後も、その遺訓は守られ、わたしたちは現在、膨大な量のモーツァルトの手紙を読むことができます。けれども、その手紙は、モーツァルトの音楽の大芸術に対して、あまりにも語ることが少ない凡庸なもので、実生活上では無能力者とも言えるモーツァルトの不思議な人生の有り様を見せてくれます。このモーツァルトの音楽の大芸術と手紙の凡庸さとのちぐはぐな断絶は、われわれを言いようのない当惑に陥らせます。およそ形容しようのない人間存在そのものの不思議な謎に連れて行かれるような気がします。モーツァルトは短い生涯の間に膨大な量の作曲をしましたが、駄作は一曲も書いていません。いわば、常に白鳥の卵を産み続けるアヒルであった、つまり、神がそのように命じたとしか思えないような音楽家でした。モーツァルトは最後に稀代の大作曲家らしからぬ無縁仏のような死を死にます。これも、神の思し召しとしか言いようがないものです。本書はそのモーツァルトの手紙の中から、特に編者が重要と考えたものを精選したものです。