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自作詩 ゴッホ

ここに人間がいる
オーヴェルの夏の空の下
大地の黄と空の青とが直に連続する
色調の緊張に抗し
裸心だけで立ち続ける奇妙な人間がいる


よくよく見れば
なんというボロ着を纏った
人生に踏みつけにされた男だろう


武骨な節だらけの手は
画筆より鶴嘴を握った方が
よく似合う


頑丈な真っ直ぐな腰は異様な忍耐力の
確かさを思わせるが
双肩はすでに健康な均衡を
失っている


麦畑がざわめく
男はもう驚きもしない
もっと驚くべき生を彼は
重ねてきたから


こんなに鋭いやさしい目は誰のため
誰のためでもない
自己は
男にとって限りなく超克されるために
そのためにあった


嵐の予兆は漠然とけれども残酷な
確かさで男に近付いてくる


真実の愛を証明する為にロウソクの火で
腕を焼いた


友情を失う哀しさに耐えかね
耳を切った


狂気は
男にとって痛切に意識されるべき
明瞭なしかも奇怪な精神の
敵であった


アルルの市民は団結して
男を
精神病院に放り込んだ


鍵のかけられた風呂場で
男は狂人たちと一緒に絶叫した


それでも
人間らしく生きるとはどういうことか


生きることの謎めいた疑わしさに
男は慄然とする


大地に
肉塊が裂けたような道が走る


それはどんな色か
どんな形を
与えなければならないのか


鴉がざわめきながら飛び立つ


自然は
全根源色をあげて男に襲いかかる


人生は生き尽くされた
ピストルの弾丸は急所を外れ
男は
獣の巣のように小さな自分の家に這って帰った


黒々とした夜
男は狭いベッドの上に横たわり
絶え間なくタバコを吸い
異様な無言の一夜を過ごした


運命は紛れようもなく一個の形をとった


この男には何も隠されてはいない
隠すべき何ものも
この男は持っていない


こんなに明るくまぶしい謎は
かつて誰に生きられたことがあったろうか


いや
この鋭敏な自己観察家に
笑われまい


男は言うだろう
私は人間らしく生きようと
そう思い
いつもそれはどういうことなのかと
問い続けながら生きてきた
それだけなのだ
私の生は失敗と不幸の
連続だったが・・ ・・
生き身を否定しなければ生きていけない
男とはなんとも皮肉なものだが
致し方がない
誰の運命にもそんなところがあるのではないか
私の場合はただその現れ方が極端だった
そういうことではなかったかと思う
だが
どうやら
君はあの人のことをすっかり忘れているようだ
あの人のことを


男はしずかに瞑目する
長い舞台の幕が下りるように
ああ
夜が明けようとしている


急報を受け
直ちに臨終の兄の元に
駆けつけた弟は
男の
最期の言葉を聞いた


さてテオ
もうそろそろ死ねそうだよ


星は燃え尽きた
観客は
台風が過ぎ去った後の物見高い見物人のように
男が去った後に現れた


死んだ男の残骸のような夥しい作品が
われわれには残された


わたしは茫然とその一つの作品の前に立ち止まる


自己超克の律動はうねるように
見る者をその渦中に置く


男は疾走する
まぶしい生命の残光を放ち