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「アンナ・カレーニナ」トルストイ 新潮文庫

トルストイと比べてドストエフスキーは病的な作家と思われがちですが、トルストイには、ドストエフスキーが書いたような芸術として円熟した作品は見られません。これは、トルストイが芸術の世界に安住できなかったためで、トルストイはやがて自らの第一級の芸術作品「アンナ・カレーニナ」さえ否定する道に至ります。とはいえ、この「アンナ・カレーニナ」が非常に優れた芸術的な価値を持っていることは、間違いのないことで、芸術を信じられなかった人間によって書かれた不思議な芸術作品と言っていいでしょう。作中、アンナは典型的な悲劇人として行動します。アンナが道ならぬ恋に落ち、破局への道を突き進む様は、機関車の鋼鉄の車輪が真っ直ぐに動いて止まないようなどうにもならない必然性があります。登場人物は三百数十名を数え、およそ、あらゆるタイプの人間の人生が描き尽くされているようにさえ見える巨大な小説ですが、物語は最後に、トルストイ本人と言ってよい作中人物レーヴィンの苦悩に集約されていくようです。後に、トルストイは「神と人類に奉仕する求道者」と自らを任じるに至ります。この国家をもたった一人で敵に回す巨人は、ロシア史上誰も辿り着けなかったような精神の高峰に登り詰めたようです。不世出の芸術家であり、異常なほど真っ直ぐで、正直極まりない思想家でした。